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いわてコンポラリーアートvol.6  片桐宏典「Ghost Memory」展

2018年

”7年前の311直後、私は家族と共に岩手の宮古から陸前高田、宮城の気仙沼から牡鹿半島を廻り、塩竈や閖上、そして福島北部を南相馬まで車で回った。何が起こったのか、何が起きているのか、この目でいましっかり見ておかなければいけない。多くの命が失われ、我々の生活をことごとく破壊した広範囲に及ぶこの惨状を脳裏に刻み付けなければという思いに突き動かされた。......"

会期 2018年2月24日(土)--- 4月22日(日)
会館時間 午前9時---午後4時30分
休館日 月曜日
会場 萬鉄五郎記念美術館
028-0114岩手県花巻市東和町土沢5区135番地 TEL.0198-42-4402

Ghost Memory展に寄せて

Filling the Void / 空虚を埋める行為
片桐宏典

7年前の311直後、私は家族と共に岩手の宮古から陸前高田、宮城の気仙沼から牡鹿半島を廻り、塩竈や閖上、そして福島北部を南相馬まで車で回った。何が起こったのか、何が起きているのか、この目でいましっかり見ておかなければいけない。多くの命が失われ、我々の生活をことごとく破壊した広範囲に及ぶこの惨状を脳裏に刻み付けなければという思いに突き動かされた。  生まれ育った気仙沼魚市場の近く、昔住んだうちのあたりに着いた時、改めてその現実を実感した。メディアから流れる多くの衝撃的なイメージとは別次元のショックだった。毎日通い慣れ親しんだ南気仙沼小学校は宮城県初の鉄筋コンクリートの美しい校舎で有名だったが、その建物は残ったが、周辺地域が壊滅し住民不在のために廃校となっている。学校から帰ると友人たちと毎日集まって必ず遊びに行ったうちの前の一景島公園は、美しい樹々は全てなぎ倒され、お賽銭を取りに行ったお社も流され跡形もない。何もない、ただ、素晴らしい遊び場だった天然の岩場だけが裸の残骸として残っている。自分の記憶を辿りながらも、この現実の風景にどう向き合っていいのか分からず、私は途方に暮れた。

私が大切にしていた、幸せな子供時代の思い出を確認するための場所と空間が失われたいま、現実と切り離され拠り所を失った記憶は風化する。場所と人の記憶が現実と確認し合うときにもたらす継続的な幸福感こそが人生を支えるのに、自分の命の一部が削り取られたような喪失感。私は作家として、その空虚を埋める(Filling the Void)作業を一刻も早く開始しなければならないと思っていた。しかし、私が好んで使う「石」ではこういった表現には限界がある事も感じている。どうしたらいいのか?新しい表現のための新しい素材に取り組む必要性が生じた。

スコットランドのハイランド地方、200人ほどの小さな田舎町に、宿舎とスタジオを持ち世界各地から作家を受け入れている、スコッティッシュ・スカルプチャー・ワークショップという彫刻家のための制作滞在施設がある。私は80年代、夏はヨーロッパでシンポジウム運動のプロジェクトに参加し、冬はそこを私の隠れ家的な制作の場としていた。近年、改めてそこを訪れた時、金属鋳造と石を直接組み合わせてみたらどうだろう。以前、溶接した鉄と石の組み合わせはやっていたが、 今回、鉄を石を型として組み合わせながら直接流し込んでみたらどうだろう。真っ赤な鉄の持つエネルギーに悲鳴を上げて弾け散る御影石の組み合わせは面白いかもしれない。そこで友人である鉄鋳造作家ジョージ・ビーズリーの指導のもと、ケイト・トムソンにも手伝ってもらい、2014年夏からさっそく御影石と鋳造鉄を組み合わせた作品に取り組み始めた。それが今回展示する「Ghost Memory」シリーズである。  現実を突き詰めていく作業に救いは無いかもしれない。失ったものは決して二度とは戻らない。しかし、喪失した空虚をなんとか埋めようとする象徴的な行為の過程で、 過去と現実が共鳴し、拠り所を失った記憶と行き場のない感情が作品とともに昇華するとき、 新たな空間が私のまわりに充溢する。