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片桐宏典「沈黙と光」盛岡市民文化ホール展示ホール

2001年

「沈黙と光」について  
ふだん、私は、設置場所があらかじめ決められた彫刻の制作依頼を受けて、その場所にふさわしい意図と形を持った作品、モニュメント制作が活動の中心です。著名人の銅像から抽象的でモダンなシンボル・モニュメントや、広場全体を作品とする環境アート的なものにいたるまで。そこでは、地域の特性やその土地の歴史からくみ取れる題材を、どのような主体性とアイデンティティをもって、今我々が生きている、現代という時代のものとして表現できるかを、モニュメントの依頼者たるその地域の住人や時には他の分野の専門家の協力を得ながら、時間をかけて煮詰めていく中で、最終的に彫刻モニュメントが出来上がっていきます。彫刻芸術が人間精神の代弁者として、「永劫不変の美」を堅牢な素材の中に閉じこめることで人間礼賛を高らかに謳うものです。

今回の展覧会では、そういった制作手法から離れて、刻々と変化する発光ダイオードの鮮やかな光を中心としたオブジェとコンピューターで加工された風景映像、そして鉛筆とパステルによる大型ドローイングを、ひとつの動的な環境作品として組み立てて、「沈黙と光」にまつわる心情表現を試みました。

会場の中心となる、窓の切り抜かれた黒御影石と長さ14mに及ぶ変幻自在の発光ダイオードの光のラインの組み合わされた作品『窓ー永遠と偏在』と約5分間の映像作品『海』は三陸の海の移り変わる表情を、コンピューターを使って加工製作しました。風や光の変化の影響を受けて波立つ、生命そのものであるその表情は、自然界の不断の変遷と循環を象徴しています。暗闇に突如出現する摩天楼のような巨塊な構築物の真ん前で立ちすくみ、虚空を見上げる。目の前にあるものは何かを語らんとしている「沈黙」である。鉛筆によるドローイングのシリーズ『見知らぬ隣人たち』は、はじめ、人間心理に潜む不安、畏怖、正体のはっきりしない障害などをそういった心象風景を借りて表現しようと始まったものです。しかし、そんなイメージを様々な角度から追いかけてみると、単にネガティブな感情だけではなく、空間を飛翔し自由な視点を獲得する、目指すべき目標、頂点といった表情も画面の中に現れてきました。以前、私は1980年代に盛んに色鉛筆を使ったドローイングのシリーズを制作していました。今年、久しぶりに色を持ち込んでみることにし、光のスペクトルを題材に、粗いネパール産手漉きのロクタ紙の上に、パステルの色彩と鉛筆の黒の対比を「光と闇」の対比と重ね合わせました。

冬の東北が漆黒の闇に閉ざされる日没直前、凍りついた薄暮夕闇の世界。鮮やかな色彩広がる空。光る三陸の海、その水面を渡るざわめきのような風。連日のように繰り広げられる、こんなあたりまえの風景、我々にとっての日常。そんな東北の「透明な光と漆黒の闇の間」が今回のテーマです。

最後になりましたが、この展覧会の実現に向けて多大なる御協力をいただきました(株)若松六本木設計をはじめ、多くの皆様に深甚なる感謝の念を表します。
2001年12月

会場 盛岡市民文化ホール展示ホール
会期 2001年12月19日~24日